健康志向の高まりを受け、健康に良さそうなイメージのある全粒粉を使用した食パンの人気が高まっています。実際、テレビや雑誌で取り上げられることも少なくなく、店頭で目に触れる機会も多くなっています。ところが、この全粒粉入りの食パンから発がん性の認められる残留農薬が検出されたことが指摘されています。
果たして、全粒粉を使用した食パンは残留農薬によって汚染されてしまっているのでしょうか。
なぜ私たちは残留農薬が気になるのか、残留農薬のない食品を食べるにはどうすべきか
そもそも全粒粉を使用した食パンとは
全粒粉とは、糠となる果皮、種皮、胚、胚乳表層部といった部位について精白などの処理を通じて除去することなく、各種穀物をそのまま粉状にしたものを言います。小麦に関していえば、一般的な小麦粉は小麦の胚乳の部分だけが粉状に加工されるため、白色なのに対して、グラハム粉という別称を持つ小麦の全粒粉は茶褐色で、その手触りにはざらつき感があります。
それは、全粒粉が殻も含めて小麦の粒をそのまま粉状にすることで作られているからです。果皮や種皮等が除去されずに残されていることの証であるといえ、実際栄養価は高く、食物繊維や鉄分、ビタミンB1が豊富に含まれることが認められています。
とりわけ、食物繊維が豊富であることから腸の働きを活性化させ、大腸がんや心臓病のリスクを軽減することが期待されています。このような特徴から、全粒粉は健康に良いというイメージを強めているのです。全粒粉を使用した食パンは一般的な小麦粉ではなく、この全粒粉を使用して作られたパンを指します。
食パンから残留農薬が検出?
2019年8月8日、山田正彦元農相が共同代表を務める「デトックス・プロジェクト・ジャパン」が、衆院議員会館で緊急の記者会見を開催しました。会見では、食パン15商品を対象に検査を行ったところ、そのうちの10商品からグリホサートが検出されたことが発表されました。
このグリホサートとは日本でも販売され、かつての米モンサント社製の世界トップシェアを誇る除草剤に含まれるとされる化学物質です。世界保健機関の外部組織である国際がん研究機関は、このグリホサートに発がん性が認められる可能性を指摘しています。
加えて、妊娠・出産への悪影響や子どもの神経障害との因果関係についての懸念も報告されています。なお、2013年から2017年に行われた農林水産省の調査結果によると、アメリカ、カナダ産の輸入小麦のうち、その90%以上からグリホサートが検出されたことが明らかになっています。
このグリホサートについての懸念には、アメリカでも関心が寄せられています。そのきっかけは、学校の校庭管理に従事していた原告が除草剤の散布作業を行っていたところ、悪性リンパ腫を患ったとして、損害賠償を請求した事件です。
この事件において、サンフランシスコ地裁は約3億ドルの賠償金の支払いを命じる判決を言い渡しました。
食パンを含む小麦製品から農薬が検出されやすい理由
では、食パンを含む小麦製品からグリホサートを含む残留農薬が検出されやすい理由は何なのでしょうか。会見ではその理由として、外国で行われているプレハーベスト処理の存在が指摘されました。これは、小麦の乾燥や収穫時期の調整など収穫作業の効率化のために、収穫直前に除草剤を散布する処理を指します。
日本の小麦の食料自給率は2017年度では約14パーセントとされており、日本で作られる小麦製品の原料となる小麦は外国からの輸入に頼っていると言えます。その外国では、農業の大規模化・省力化を背景にこのプレハーベスト処理が行われ、その活用がますます拡大しています。
外国でプレハーベスト処理を施された小麦を日本が輸入し、その小麦を使用して国内で作られた小麦製品の中にその処理を受けた際に小麦に付着した農薬が残留するという事態が起こっているのです。
全粒粉を使用した食パンは特に農薬の残留値が高い?
さらに、会見では調査対象の15商品のうち、全粒粉入りの食パン4商品について、グリホサートの残留値が特に高い傾向にあることも発表されました。その理由については、プレハーベスト処理の際に農薬が付着した外皮が取り除かれることなく、小麦が粉状に加工されるためであると説明されました。
精白処理を施さないという全粒粉の特徴があだになってしまった結果と言えるでしょう。
問題は食パンだけに留まらない
冒頭でも述べたように、精白処理が施されず外皮が残される全粒粉は食物繊維やビタミン、ミネラル類を豊富に含んでいると言われ、健康に良さそうなイメージを持たれがちです。しかし、会見が明らかにした調査結果は、高い健康志向から全粒粉を使用した食パンに関心を寄せていた消費者層に大きな衝撃を与えるものでした。
もっとも、問題は食パンに限られません。全粒粉はクラッカーやビスケット、シリアル食品、パスタなどにも使用されていますし、カップ麺やハンバーガー、ビールをはじめ、小麦等の輸入穀物が原料となる製品は他にもたくさんあります。
これらの食品から残留農薬が検出される可能性も否定できないからです。我々が安心して小麦製品を食べることができるようにするためにも、さらなる調査が待たれます。また、直接口にする穀物だけに注意をしていれば、懸念を払しょくすることができるわけでもありません。
例えば、農薬に汚染された飼料を食べて育った牛や豚といった家畜が食肉として食卓に並ぶことで、健康被害を招く可能性もあるからです。食品の安全対策について、日本では厚生労働省があらゆる農薬、飼料添加物、動物用医薬品についての残留基準を設定し、食品中に残留する農薬などによる健康被害の防止に努めています。
この基準値は食品安全委員会により、人が摂取しても安全といえる量を基準に食品ごとに設定されています。その基準値を超えて農薬が残留する食品については、その販売や輸入が禁止されます。もっとも、その基準値を超えなければ、食品に農薬が残留していたとしてもその販売や輸入は禁止されず、我々が口にする食事の中に入り込むことになります。
そのため、その残留基準が果たして妥当なのかどうか、安全性に十分に配慮したものになっているのかどうかは最新の研究を踏まえた見直しが絶えず行われる必要があるでしょう。加えて、グリホサートを含有する除草剤は日本でも校庭や公園で使用されており、ホームセンターなどで一般市民が購入することができます。
そのため、農薬の健康被害の問題は食品だけにも留まらないのです。したがって、食品以外のルートも含めた農薬の健康被害に関する包括的・総合的な検証が求められることになります。